広告/Amazon のアソシエイトとして、遊びゴコロは適格販売により収入を得ています。

『魔界塔士Sa・Ga』(まかいとうし サ・ガ)は、1989年12月15日にスクウェア(現スクウェア・エニックス)からゲームボーイ用ソフトとして発売されたロールプレイングゲームです。
スクウェアが初めて開発したゲームボーイ向けソフトであり、同時に携帯型ゲーム機初の本格RPGとして位置付けられています。
開発はスクウェア第一開発部で、ディレクターは河津秋敏、音楽は植松伸夫が担当しました。発売当時の価格は4,000円程度で、ゲームボーイという携帯機ながらシングルプレイ専用の本格RPGを実現しています。
本作は後に「サガ」シリーズとしてシリーズ化される初作品であり、スクウェア初のミリオンセラーとなる大ヒットを記録しました。
日本国内で約110万本を売り上げ、ファミコン向け『ファイナルファンタジー』シリーズより先にスクウェア史上初のミリオン達成作となっています。
北米ではタイトルを『The Final Fantasy Legend』(ファイナルファンタジー外伝)と改題して1990年9月に発売されました。
ファイナルファンタジーの名を冠したのは販売元である任天堂米国法人の意向によるもので、当時のスクウェアもブランド戦略として外伝作品に「FF」の名を付ける方針があったようです (参考記事:電撃 – 新作『SAGA2015(仮称)』発表記念。河津秋敏氏が振り返る『サガ』シリーズ25年の思い出)。
なお北米版ではラスボスの「神」は直接的な宗教表現を避けて「創造主(Creator)」と表記されるなど、一部ローカライズ上の変更があります。
対応機種はゲームボーイのみですが、その後2002年3月にワンダースワンカラーでリメイク版が発売され、2007年には携帯アプリ(iアプリ)**向けにも移植配信されています。さらに2019年にはシリーズ30周年を迎え、翌2020年12月に初期サガ3部作を収録した『Sa・Ga COLLECTION』がNintendo Switchで発売され、現在はスマートフォンやPCでもプレイ可能です(同コレクションは2021年にAndroid/iOS/Windowsへ展開)。
ゲームシステム: 種族選択と独自の成長システム
本作最大の特徴の一つが、ゲーム開始時にパーティメンバーの種族を自由に選択できる点です。
プレイヤーは主人公の種族と性別を、人間(男/女)、エスパー(超能力者、男/女)、モンスター(計4種類のモンスター)から選び、残り最大3人の仲間も各地の冒険者ギルドで自由に雇用できます。種族ごとに成長システムが大きく異なり、これが本作のゲーム性をユニークなものにしています。
- 人間(にんげん): 装備スロットは8つまで。戦闘でレベルアップはせず、「ちからのもと」「すばやさのもと」「HP200」などステータス強化用の薬(アイテム)を使うことで能力値が上昇します。そのため資金さえあれば序盤からHPや力・素早さを最大近くまで伸ばすことも可能です。防御力は防具装備で上げ、魔力は一部の装備でわずかに補強できる程度のため、人間は魔法の効果がほとんど期待できない種族です 。
- エスパー(エスパー: 男はエスパーマン、女はエスパーギャル): 装備スロットは4つで、さらに4つの特殊能力スロットを持ちます。戦闘終了後に突然変異的な成長が起こり、ランダムで能力値が上昇したり特殊能力が入れ替わる という不確定要素の強い成長が特徴です。
能力変化は男女で傾向が異なるものの基本的にランダムで、戦闘中の行動や敵の強さには影響されません。特殊能力には使用回数が設定されており、戦闘毎に増減するため管理が難しいですが、宿屋で休めば最大値まで回復します。 - モンスター: 装備は一切できず、8つの特殊能力だけを持つ種族です。成長方法は特にこのゲームでもユニークで、倒した敵が落とす「肉」を食べることで別のモンスターに変身します。変身後はそのモンスター固有の能力値・特殊能力に全て置き換わり、場合によっては弱体化することもあります。変身の法則は「現在のモンスターのレベル」と「食べた肉の元モンスターのレベル」を比較し、高い方を基準に変身先が決定されるというもので、必ずしも強い肉を食べなくても強化できる可能性があります。この「肉を食べて強くなる」進化システムは当時として斬新であり、本作を語る上で象徴的な要素です。
こうした種族ごとの成長の違いにより、プレイヤーはパーティ編成と育成方針に大きな自由度が与えられました。当時の他RPGにはない自由なキャラクター育成は高く評価され、ゲームボーイという限られた環境で深みのある戦略性を生み出しています。
もっとも、人間とエスパーは通常の戦闘では強くならないため序盤は弱く感じる、モンスターは変身結果が運頼み、といった難しさもあり、独特のシステムに戸惑うプレイヤーもいたようです。
しかし慣れれば「3種族のまったく異なる成長方式が生み出すキャラクター育成の柔軟さが本作最大の魅力である」と評価されています。
また、本作は装備品や道具に使用回数の概念があることもゲームシステム上の特徴です。武器・魔法書など大半のアイテムには使用可能回数が設定され、使い切ると消滅します(剣や盾でさえ例外ではありません。
エスパーやモンスターの能力にも回数制限がありますが、こちらは前述のように0になっても宿屋で回復可能です。アイテムを使い切るタイミング管理が戦略性を生み、一方で当時のプレイヤーからは「剣や斧まで壊れるのは不自然」との声もありました。しかし開発側は携帯機で短時間プレイを繰り返す中で緊張感を持たせる狙いでこの仕様を導入しており、後述するように出現率の高い敵との戦闘も相まって常にリソース管理を求められるゲーム性となっています。
そのほか、各キャラクターには「HP(体力)」のほかに「ハート(残機)」と呼ばれる命のストックが設定されています。
各キャラは初期状態でハートを3つ持ち、戦闘不能になって町の病院で蘇生させるとハートが1つ消費されます。
ハートは高価なアイテムで補充可能ですが、0になると通常蘇生できなくなるため実質的な蘇生回数制限となります (ハート0のキャラもアイテムでハートを増やせば復活可能)。さらにHPが減った分だけ宿屋の宿泊代が上がる(HP満タンなら無料で泊まれる)という独特な設定もあり、終盤になるほど宿代が高騰する仕組みでした。
これらのシステムは携帯機RPGならではの歯ごたえのある難易度調整として機能し、本作の高難度ぶりを支えています。
ストーリーと世界観: 塔を巡る多元世界の冒険(ネタバレあり)
「塔の上には楽園がある」――本作の世界には、神によって創造された4つの世界が存在し、それらは中央に聳える一本の巨大な「塔」で連結されています。人々の間では「塔を登り切った者は楽園に至る」という伝説が語り継がれており、それを信じた主人公たちは塔の謎を解き明かす冒険の旅に出ます。舞台となる世界は階層ごとに性質が異なり、下層から順に「大陸世界」(地上世界)、「海洋世界」、「空中世界」、「都市世界」といったフィールドが展開します。各世界には独自の町やダンジョン、住人たちがおり、主人公たちは塔を経由してこれら複数の世界を渡り歩いていく壮大な冒険を体験します。
物語は各世界で起こる事件を解決しながら塔を上へ上へと目指す構成になっています。例えば一つ目の大陸世界では、塔の鍵を持つ王様を助けるために周辺の洞窟や塔の入口を探索し、次の海洋世界では海賊や怪物によって脅かされる町を救う…といった具合に、階層世界ごとに小さなドラマがあります。
それぞれの世界の支配者として立ちはだかるのが「四天王」と呼ばれる強敵で、朱雀・青龍・白虎・玄武といった東洋神話由来の魔物がモチーフになっています。主人公たちは冒険の果てに塔の最上階(23階)へ到達し、最後の四天王・朱雀を打ち倒します。
しかし物語はここで終わりません。最上階に現れたのは四天王を束ねるアシュラでした。アシュラは主人公たちの実力を認め、なんと「自分に代わって新たな四天王にならないか」と誘惑してきます。
もちろんこれを拒否した主人公一行はアシュラとの最終決戦に突入し、激闘の末にこれを撃破します。ところが直後、シルクハットを被った謎の紳士が現れました。その男の正体こそが「神」(創造主)であり、今回の騒動は退屈しのぎに神がアシュラたち魔物を各世界に解き放ったことが原因だったと明かされます。神は「所詮これも生き物の性(サガ)か……」と人間の業を嘲りつつ主人公たちに襲いかかり、ゲーム最後の戦いが繰り広げられます。
ラスボスが創造主たる「神」であるという展開は、当時のRPGとして非常に異色で衝撃的でした。小さな画面のゲームボーイで「神殺し」のクライマックスを描いたことは大きな話題を呼び、欧米のゲーム誌でも「日本のRPGにおける定番テーマである“仲間と協力して神を倒す”物語の嚆矢の一つ」と評されています。
特にチェーンソー(のこぎり)というアイテムで神を一撃で倒せてしまうという本作特有の現象はプレイヤーの語り草となり(後述)、IGNのレビュアーは「神をチェーンソーで倒せるなんてパンクで最高だ!」とユーモアを込めて絶賛しています。
なお、当初の構想では物語展開が現在とは逆になる案も存在しました。すなわち「ひたすら塔を下へ潜り、最下層で魔王となって神と戦う」というシナリオです。実際「魔界塔士(魔界の塔の戦士)」というタイトルから、主人公が魔界へ赴く物語にも解釈できますが、最終的に現在の形(塔を上る)に落ち着いたようです。河津氏によれば初期プロットの名残で「上に登った場合はラスボスがアシュラになる想定だった」とも語られており 、没案とはいえ興味深い裏設定です。結果として完成版では塔を上り四天王→アシュラ→神と戦う流れになりましたが、この大胆なシナリオは後のシリーズや他作品にも強いインパクトを与えました。
開発の背景: ゲームボーイへの挑戦
『魔界塔士Sa・Ga』の開発は、スクウェアがファミコンのヒット作『ファイナルファンタジーII』を完成させた直後に始まりました。
当時、任天堂から新発売された携帯ゲーム機ゲームボーイ向けに何か作品を作ってほしいと社内で要請があり、河津秋敏氏(本作ディレクター)ら開発陣はFFシリーズの次回作用に温めていたアイデアを流用してゲームボーイRPGを作ることに決めたそうです。
スクウェアの宮本雅史社長は当初「テトリスのようなパズルゲーム」を期待していたそうですが、河津氏と石井浩一氏は「ユーザーが本当に求めているのはRPGだ」と主張し、自ら企画を立ち上げました。携帯機でRPGを作るという前例のない挑戦に、当初は社内でも不安視する声があったといいます。
ハード制約の厳しいゲームボーイでRPGを表現するにあたり、開発チームはいくつもの工夫を凝らしました。例えば「6~8時間程度でクリア可能」という明確なコンセプトが最初に定められています。これは成田からホノルルまでの飛行時間(約6~8時間)で遊べるボリューム、すなわち長旅の暇つぶしになるゲームを目指したものです。
そのため物語のシナリオも当時の据置機RPGより短めにまとめられました。河津氏自身「容量の都合もあってシナリオは短く削った」と述べており、結果としてテンポの良い短編RPG的な仕上がりになっています。プレイヤーが携帯機で短時間プレイを繰り返すことを想定し、移動中のわずかな時間でも確実に戦闘などイベントが起こるよう敵のエンカウント率も高めに設定されました。他のスクウェア作品(FFなど)に比べても敵出現頻度が高いのはこのためで、「短いプレイの中で最低1回は戦闘を発生させる」というデザイン目標があったと語られています。
開発スタッフは少数精鋭で、河津秋敏氏のほか石井浩一氏、伊藤裕之氏、時田貴司氏らがシナリオ執筆や世界設定を担当しました。石井氏と伊藤氏はゲーム世界観や地形デザインも手がけ、時田氏はキャラクターデザインとドット絵制作を担当しています。ゲームボーイはモノクロ画面のため、炎などのエフェクトを色で表現できない制約がありましたが、開発陣は白と黒だけで想像力を刺激する世界を作ることに注力しました。時田氏は「色を考えなくて良い分楽だった」としながらも、取扱説明書のイラスト制作で初めて色を意識したと回想しています。結果として、本作のグラフィックはモノクロながら緻密で雰囲気のあるものとなり、「ゲームボーイでこの完成度はすごい」と絶賛されました。
世界設定にもユニークな工夫があります。本作の世界は一貫性よりもバラエティを優先しており、各階層世界の雰囲気は統一されていません。中世風ファンタジーの町があるかと思えば、バイクに乗る暴走族が生身で原子力発電所に突入するイベントがあるなど、当時の常識に囚われない大胆なシチュエーションが展開します。
河津氏らは「どんな世界にも見える塔」を舞台にしたことで、何でもアリの遊び心を盛り込みたかったといいます。これは後のサガシリーズにも通じる作風で、ファンタジーにサイバーパンク的要素を混在させる本作の世界観はプレイヤーに強い印象を残しました。
難易度面では、当初より「一歩進んだシステム設計」で歯応えのあるゲームを目指していたと河津氏は述べています 。ファイナルファンタジーシリーズが比較的オーソドックスで誰にでも遊びやすいRPGだとすれば、サガシリーズは実験的・硬派なゲーム性で差別化しようという狙いです。
実際、本作の戦闘は容赦のない高難度で知られ、プレイヤーからも「とにかく敵が強い」「システムを理解しないと詰む」という声が多く聞かれました。
しかしこの難易度こそが攻略し甲斐のあるポイントでもあり、河津氏自身も「サガは難しいからいいんだ」というユーザーの声に支えられたと語っています。
なお、物語や設定に関して河津氏は「派手な演出が売りのFFに対し、本作は地味でも独自性を追求できた」と振り返っており、結果的にFFシリーズとの差別化に成功したと述べています。
タイトル命名の由来
「Sa・Ga(サ・ガ)」というタイトルについても興味深い開発秘話があります。本作の企画段階では「ドガ」や「ズガ」などといった仮タイトル案が出ており、タイトルに「ガ」の音を入れることだけが決まっていたそうです (電撃 – 新作『SAGA2015(仮称)』発表記念。河津秋敏氏が振り返る『サガ』シリーズ25年の思い出)。やがて最終的に「サ・ガ」という造語が採用されましたが、河津氏は「最初からサーガ(叙事詩)の意味ではないと意識していた」と語っており、たまたま作中で神が発する「これも生き物の性(サガ)か…」という台詞の「サガ」とタイトルを掛けたわけでもないと明言しています。むしろ語感の面白さや解釈の広がりを狙ったタイトルであり、以降この「サガ」の語はシリーズの象徴的なワードになりました。
副題「魔界塔士」は漢字4文字のインパクトを重視して付けられています。河津氏自身が命名したもので、その着想には一風変わったエピソードがあります。昔APPLE II用ゲーム『Phantasie』の海賊版に『幽霊戦士』というタイトルのものがあり、その怪しげな雰囲気が強烈に印象に残っていたため、「サガ」の副題にもアジア的な胡散臭さを出したかったというのです。こうして「魔界」や「塔士」といった言葉を組み合わせ、「魔界塔士」というタイトルが誕生しました。「魔界の塔の戦士」という直接的な意味以上に、どことなくB級テイストで怪しげな響きを狙ったネーミングだったわけです。
北米版タイトル『The Final Fantasy Legend』については、河津氏は「誰が決めたか覚えていないが、発売元が任天堂だったためFFブランドを冠したのだろう」と述べています。当時スクウェアの社長だった宮本雅史氏の提案だった可能性もあるようで、実際同社の別作品『聖剣伝説』の第1作も『ファイナルファンタジー外伝』の副題が付いていました。
このように、スクウェアは自社の新規ゲームを当時大人気だったFFシリーズの名を用いて売り出す戦略を取っていた節があります。
結果として『魔界塔士Sa・Ga』も海外ではFFシリーズの一部と誤認されることがありましたが、本作の独創的な内容は世界各国のユーザーに受け入れられ、後に海外でも「SaGa」シリーズとして認知されていくことになります。
音楽・サウンド: 植松伸夫が紡ぐ15曲
携帯機用RPGとはいえ、音楽面でも本作は妥協していません。作曲を手掛けたのは『FF』シリーズでお馴染みの植松伸夫氏で、ゲーム内では全15曲のBGMが使用されています。ゲームボーイの音源はファミコンとは仕様が異なり(ステレオ不可、独特の波形、3和音など)、「最初はその差異に苦労した」と植松氏は振り返っています。ディレクターの河津氏からは「FF初期作のような音楽にしてほしい」と要望されたものの、植松氏はゲームボーイ向けに新しい音色(波形)を自作して対応したとのことです。限られたPSG音源でリッチな音を表現するべく工夫が凝らされており、ゲームボーイ版『Sa・Ga』のサウンドはシンプルながら印象に残る旋律が多いと評価されています。
特に人気が高いのが、塔を上る旅情を感じさせる明るい「メインテーマ」や、エンディングで流れる「エピローグ」、そして哀愁漂う「涙を拭いて」(北米版タイトル:”Heartful Tears”)などの楽曲です。
戦闘勝利時のファンファーレ「Eat the meat」という曲名は、まさに倒した敵の肉を食べるという本作独自のシステムにちなんで名付けられたものです。
サガシリーズでは以降も戦闘曲のメロディを受け継ぐなど音楽的な連続性があり、本作の曲も後年の作品やコンサートで度々アレンジ・演奏されています。例えば「涙を拭いて」はサガシリーズ全体で5作品にアレンジ版が使われたほか、2008年のゲーム音楽コンサート「PRESS START」では「若き日の植松伸夫メドレー」の一部として本作の楽曲群がカナフィル(神奈川フィルハーモニー管弦楽団)により演奏されています。
ゲームボーイというハードは音源容量も限られていましたが、軽快で記憶に残る植松メロディは携帯機RPGファンの心にも強く刻まれました。当時の誌面でも「グラフィックや操作性のみならず音楽もゲームボーイ最高峰」と評されており、サウンド面での完成度の高さが本作の評価を押し上げる一因となっています。植松氏自身も後年「リメイクするなら音楽とグラフィックの質は上げたいが、肝心なのはユーザーが楽しめるゲームにすることだ」と語っており 、本作への並々ならぬ愛着をうかがわせています。
発売当時の評価とセールス
本作は発売直後から大きな話題を呼び、ゲームボーイ用ソフトとして異例のヒットとなりました。前述の通り日本国内売上は約110万本に達し、当時のスクウェアにとって初のミリオンセラー作品となっています。
ゲームボーイというハード自体も1989年発売で普及期に入り始めた時期で、本作の成功は「RPGも携帯ゲームで売れる」という実績を示し、後続の携帯機RPG市場を切り拓いたと評価されています。事実、本作のヒットに触発されてゲームフリークの田尻智氏は「ゲームボーイでもアクション以外のジャンルが追求できる」と確信し、『ポケットモンスター』(ポケモン)開発に乗り出したと語っています。『魔界塔士Sa・Ga』の成功は、のちに携帯ゲームを代表するRPGとなる『ポケモン』誕生にも影響を与えたのです。
専門誌での評価も非常に高く、ファミコン通信クロスレビューでは40点満点中35点(9,9,9,8)を獲得してプラチナ殿堂入りとなりました。
レビュアーからは「画面が小さいので目は疲れるけど、かなりの力作」「ゲームボーイというハードにピッタリなストレートなゲームシステムが心憎い」「ゲームボーイでこの完成度はすごい」「新鮮な印象を受けるし、マニアックに走っていないのも好感が持てる」など絶賛のコメントが並んでいます。特に携帯機向けに洗練されたシステムと完成度の高さ、そして初心者でも取っつきやすいバランスが評価ポイントとして挙げられていました(もっとも実際の難易度は高めですが、当時はこれを「歯ごたえがある」と前向きに捉える向きが強かったようです)。
徳間書店の『ファミリーコンピュータMagazine』読者クロスレビュー「ゲーム通信簿」でも、満30点中24.42点という高得点を記録しています。項目別ではキャラクタ4.11、音楽4.02、操作性3.96、熱中度4.27、お買い得度4.10、オリジナリティ3.96と、全項目で4点前後の安定した評価を獲得しました。同誌の総評では「ファミコン版FFの流れを汲みつつ、ゲームボーイ用にうまくアレンジされている」と紹介されており、当時から「GB版FF」的な親しみやすさとサガ独自の工夫が高く評価されていたことが分かります。
海外でも概ね好評で、Nintendo Power誌の1990年ベストゲームボーイゲーム第3位に選ばれたほ、Game Informer誌の「歴代ゲームボーイソフト」ランキングで6位に入るなど、欧米においてもゲームボーイ黎明期の名作として名前が挙がります。
ただし英語版タイトルがFF外伝扱いだったこともあり、「FFとは別物のゲーム」である本作を戸惑いながらプレイした海外ユーザーもいたようです。
それでも「非常にクリエイティブで1989年の作品としては先進的だ」「3種族の成長システムは今遊んでもユニーク」という再評価も現代では見られます。
売上的にも評価的にも、『魔界塔士Sa・Ga』はゲームボーイ初期を代表するキラータイトルの一つとなりました。この成功を受け、スクウェアはすぐさま続編の制作に着手し、翌1990年には『Sa・Ga2 秘宝伝説』を発売することになります。サガシリーズの勢いは当時凄まじく、本作と次作『サ・ガ2』はともに任天堂ハードの人気RPGとして確固たる地位を築きました。
後続シリーズや他作品への影響
本作のヒットにより、「サガ」シリーズはスクウェアの主要RPGシリーズの一つとして継続していきます。ゲームボーイでは第2作『Sa・Ga2 秘宝伝説』(1990年)、第3作『時空の覇者 Sa・Ga3 [完結編]』(1991年)と計3作品が制作され、いずれも高い人気を博しました(『サ・ガ2』『サ・ガ3』は北米ではそれぞれ『Final Fantasy Legend II』『III』のタイトルで発売)。
特に『サ・ガ2』は前作のシステムを踏襲しつつ「メカ」種族の追加など拡張を加えた完成度の高い作品として評価され、シリーズの知名度を一気に押し上げました。以降、舞台をスーパーファミコンに移して「ロマンシング サ・ガ」三部作**(1992~1995年)やプレイステーションの「サガ フロンティア」シリーズへと発展し、現在まで20作以上の関連タイトルがリリースされています。
他作品への影響という点では、先述した『ポケットモンスター』開発への刺激のほかにも、本作ならではのユニークなエピソードがゲーム文化に刻まれています。
その最たる例が、やはり「チェーンソーでラスボス(神)を一撃で倒せてしまう」という現象でしょう。
これは本作のバグに起因するものですが、開発者の河津氏自身が後に「本来ボスには効かないはずの即死判定が、本作では逆転して通ってしまった」と認めています。
しかしファンの間ではこの「チェーンソーで神様を倒す」という攻略法が語り草となり、むしろ本作の伝説的なネタ要素として楽しまれるようになりました。
スクウェアも粋なもので、後年の作品でこのネタを随所に盛り込んでいます。たとえばコメディ色の強いSLG『半熟英雄』シリーズにはチェーンソーを持った「かみ」というキャラクターが登場し、ロマンシング サガ リマスター版でも「かみをたおしたおの」という絵本の中でチェーンソーオマージュが描かれています。
サガシリーズ公式でも、この現象はもはや「仕様」として扱われており、リメイク版などでも修正されずネタとして継承されました。
ストーリー面でも、「塔を登って神に挑む」という本作の構図は後年の作品群に影響を与えました。天界の神々に戦いを挑むシナリオは日本RPGの一つの伝統となり、例えば女神転生シリーズやテイルズシリーズなどでラスボスが神格という例も見られます。
本作自体も「神を倒す物語」として海外のゲームメディアで語られることがあり、そうした文脈でも先駆的作品として名前が挙がります。また、サガシリーズ内部においても後発の作品で本作を意識した要素が散見されます。サガフロンティア2には「塔」を象徴的に扱うシナリオが存在し、ロマンシング サガ ミンストレルソング(リメイク版)では前述のチェーンソーネタを絡めたイベントが組み込まれるなど、シリーズ内でのセルフオマージュが行われています。
一方でゲームシステムの系譜として見ると、『魔界塔士Sa・ガ』のシステムは後続作品で様々な発展や変遷を遂げました。
続編『Sa・Ga2』では「モンスターの肉」システムが継承されつつ新種族メカが追加され、人間・エスパーも能力値が戦闘後ランダム成長する方式に統一されました。
『Sa・Ga3』では一転して経験値によるレベルアップ制が採用され(携帯機サガでは異例の一般的成長方式)、肉やパーツで種族変化する要素もありますが全体としては遊びやすい調整になっています。これは当時スクウェアが『FF』シリーズと並行してサガを開発する中で、異なる方向性を模索していたことの表れと言えます。ロマンシング サガ以降は「フリーシナリオ」や「閃き」などの新システムが前面に出るようになり、ゲームボーイ3部作のシステムは一旦役割を終えました。
しかし近年、Nintendo DS向けに『サガ2』『サガ3』が3Dリメイクされた際にはオリジナル版のシステムが尊重され、改めて初期サガのゲーム性が見直されています。現在のRPGにも通じる自由度と尖った設計を、30年以上前に携帯機で実現した本作の意義は非常に大きいと言えるでしょう。
プレイヤーの評価(当時と現代)
発売当時、本作を手に取ったユーザーからは驚きと称賛の声が多く聞かれました。携帯ゲーム機でありながら据置機RPGに匹敵する本格的な冒険が楽しめること、そして何より「人間・エスパー・モンスター好きにキャラを育てられる自由さ」が新鮮だと受け止められました。
一方で、前情報なしにプレイしたユーザーの中には独特の成長システムへの戸惑いもありました。とくにモンスター種族は「倒した敵の肉を食べさせると突然別の生物に変わる」という突飛な成長方式のため、当時小学生だったプレイヤーから「意味が分からず適当に肉を食べさせていたら弱くなってしまった」といった声も上がっています。
また、人間に至ってはレベルすら存在しないため「どうやって強くするの?」と困惑するケースもありました。
敵を倒して経験値を稼ぎレベルが上がるという当時のRPGの常識を覆し、非常に斬新なシステムとして注目されましたが、しかしこうした不親切さも含めて攻略のしがいがあるという評価に落ち着き、ゲーム誌のクロスレビューでも「マニアックに走っていないので好感が持てる」と肯定的に捉えられています。レベル上げのための単調な繰り返しが不要なため、短いプレイ時間でもゲームが進行していると感じられるように工夫がされています。
難易度については総じて、当時の一般的なRPGと比較して難易度が高いと感じるプレイヤーが多かったようで、賛否が分かれるところでした。本作の戦闘は敵が容赦なく強く、ボス戦では適切な準備や戦術がなければあっさり全滅してしまいます。
クリアまでのプレイ時間こそ短めなものの、歯ごたえは十分で、当時の子供からすればかなり難しい部類のRPGでした。
その反面、「強い敵ばかりで燃える」「試行錯誤して成長法を見つけるのが楽しい」と熱中するコアなファンも生みました。攻略本や雑誌に頼らず自力でシステムの裏を読み解く醍醐味は、サガシリーズならではの魅力として定着していきます。
河津氏は「サガシリーズは難しいからこそいい」という声を聞き、作品づくりの自信になったと述べています。
実際、本作については「難易度調整もプレイヤーの腕次第」とする見方もあり、例えば「パーティ人数をあえて減らしてプレイすればさらに歯ごたえが増す」といった楽しみ方を推奨する意見もありました。このように遊び手側が自由に縛りプレイや工夫を凝らせる点も、本作が支持された理由と言えるでしょう。
現代のプレイヤーから見た『魔界塔士Sa・Ga』は、さすがにシステムやインターフェース面で古さは否めません。しかしレトロゲームの名作として再評価する声は根強く、2020年発売の『Sa・Ga COLLECTION』によって初めて触れた若年層からも「1989年のゲームとは思えないほど自由度が高い」「短いテキストで強烈なインパクトを与えてくるシナリオが秀逸」といった感想が聞かれました。
また、海外のRPGファンの間でも「今遊んでも驚くほどクリエイティブ」「キャラ成長システムが楽しい」と評判で、発売から30年以上を経た現在でも十分楽しめる作品との評価があります。もっとも、一度現代的な親切設計に慣れたゲーマーには取っ付きにくい部分もあるため、「好き嫌いは分かれるがハマる人はとことんハマるゲーム」という位置付けになるでしょう。まさにサガシリーズの原点らしい尖った作品と言えます。
本作を象徴する「チェーンソー一発芸」については、当時を知らない新規プレイヤーにもぜひ試してほしいネタです。前述のとおりチェーンソー(またはノコギリ)という武器をラスボスの神に使うと低確率で即死させられるため、意図せず「あれ、ラスボスが一撃で死んだ!?」という拍子抜けな結末を迎えることがあります。
この衝撃的かつ笑える体験は語り草であり、現代でも動画配信などでネタとして盛り上がるポイントです。ある海外コメディアンは本作のラストバトルについて「ゲーム史上最もあっけない神との対決だ」とジョークにしたほどで、当時を知らない人にもユーモアとして伝わるレベルの有名バグとなっています。
総じて、『魔界塔士Sa・Ga』は「自由度が高くて難しいが、人を惹きつける魅力に溢れたゲーム」**という評価が現在まで受け継がれています。ファミ通などのインタビュー企画で思い出を語る開発者・ユーザーも多く、携帯ゲーム黎明期の思い出深いタイトルとして語り継がれている作品です。
豆知識・バグ・トリビア
●バグと裏技: 初期出荷版の『魔界塔士Sa・Ga』にはいくつか有名なバグ技が存在しました。代表的なものに、ゲーム開始直後に特定の手順を踏むと主人公のステータスを最大値近くまで底上げできてしまう裏技や、通常行けないはずの第1階層の洞窟から一気に第5階層へワープしてシナリオを飛ばせてしまうバグなどがあります。これらは後期出荷版で修正されましたが、カートリッジのラベル等では判別できないため、ステータス画面の表記で見分ける方法が知られています。初期版ではステータス項目に「ちから」と表示され、後期版では「こうげき」と表示される違いがあるため、購入時にここを見ると良いと当時の雑誌でも紹介されました。
●チェーンソーバグの真相: 前述のラスボス即死バグについて、実は開発側も想定外のものでした。プログラム上、本来即死攻撃は防御力の低い雑魚敵のみに有効な仕様にするはずが、何らかのミスでボスにのみ有効という真逆の判定になってしまったのです。その結果生まれたのが「チェーンソー(ノコギリ)が一番効く相手は神様」という奇妙な現象でした。開発チームは続編の『サ・ガ2』で正しい仕様(ボス無効)に修正しましたが、『魔界塔士Sa・Ga』に関してはこのバグも含めてファンに愛されているとして、後年の移植版(WSC版や携帯アプリ版)でもあえて「仕様」として残しています。この遊び心とファンサービス精神はスクウェア(現スクエニ)らしい粋な対応と言えるでしょう。
●キリスト教界隈で物議?: ラスボスが「神」であること、そしてそれをチェーンソーで倒せることは日本だけでなく海外でもネタにされましたが、一部では宗教的な物議もあったようです。上馬キリスト教会なる団体の発信によれば、本作で神をチェーンソーで倒せるという点がキリスト教界隈でざわつきを見せたとのこと。もっともゲーム内容自体は特定の宗教を揶揄するものではなく、あくまで架空世界の「創造主」との戦いです。ただ時代的に見ても珍しいテーマだったため、話題性が先行したエピソードと言えるでしょう。
●タイトルの商標登録: 「Sa・Ga」という表記ゆれについて、小ネタがあります。スクウェアは従来「魔界塔士サガ」(中黒なし)で商標登録していましたが、2006年12月5日に「魔界塔士サ・ガ」(中黒あり)でも新たに商標出願を行っています。出願番号は2006-112449です。このタイミングでの商標追加にファンはざわめき、「ひょっとしてリメイク発売の布石では?」と期待する声も上がりました。実際には翌2007年に携帯アプリ版が配信された程度で、大掛かりな展開はありませんでしたが、当時のファンコミュニティでは久々の「魔界塔士Sa・Ga」という名前の動きに色めき立ったものです。
●その他の小ネタ: 作中に登場するセリフで「これも いきものの サガ(性)か……」という印象的なものがあります。ラスボス(神)が人間の業の深さを嘆いて放つ言葉ですが、この「サガ」はタイトルの「サ・ガ」と綴りが同じためファンの間で意味を深読みされたこともありました。しかし前述の通り、タイトルのSa・Gaは「サーガ(運命)」とは直接関係ない造語であり、偶然の一致と言われています。とはいえ結果的に「人間の性(さが)=避けられない運命」というテーマ性がタイトルにも通じているように感じられる巧みな演出となりました。
『魔界塔士Sa・Ga』の今後とシリーズ展開
2020年にSwitchの『Sa・Ga COLLECTION』が発売され、本作を含むサガ初期3部作は現行ハードで遊べるようになりました。このコレクションでは高速モードなど快適機能も搭載され、当時のままのゲーム内容を今遊びやすくしています 。
一方で、ファンから長年望まれている『魔界塔士Sa・Ga』単独のリメイクについては、現在のところ実現していません。Nintendo DSで『サガ2』『サガ3』がフルリメイクされた際にも初代は含まれず、ワンダースワンカラー版(2002年)のような移植に留まっています。
河津秋敏氏は2013年末に自身のTwitterで「魔界塔士の移植and/orリメイクは計画はしてるんですが、なかなか実行に移せてません。申し訳ない」と発言しており、何らかの構想自体はあったことを明かしています。
しかしその後2020年12月、同じくTwitter上でファンから問われた際には「魔界塔士はそのままリメイクでは短すぎるんで、内容をかなり盛らないといけない。それがリメイクが進まない理由です」と述べています。
つまり、オリジナルそのままではボリューム的に現代向け作品として不十分で、大幅な追加要素が必要になるため実現が難航しているというのです。この発言から推察するに、スクエニ社内でも企画段階の検討はあったものの、採算や制作リソースの問題で保留状態になっているのでしょう。
もっとも、サガシリーズ自体は近年も新作やリマスターが展開されており、決して過去の遺物になってはいません。2022年にはスマホ向けの『ロマンシング サガ リ・ユニバース』が人気を博し、2023年には完全新作RPG『サガ エメラルドビヨンド』の発表が話題になりました。シリーズ原点である本作のDNAは、最新作やソシャゲにも流れ込んでいます。例えば「人間/エスパー/モンスター」といった種族の概念や、自由度と難易度に挑戦するスピリットは、どの時代のサガにも貫かれているテーマです。
スクウェア・エニックスはサガシリーズの過去作復活にも積極的で、ここ数年だけでも『ロマサガ3』『サガフロンティア』『聖剣伝説 Legend of Mana』などのリマスター/リメイク版を送り出しています。そうした流れの中、シリーズ30周年(2019年)を経た今こそ『魔界塔士Sa・Ga』にスポットが当たる可能性も十分考えられます。
現行の技術で本作を3Dリメイクするとなれば、河津氏が懸念するようにシナリオ拡充等は避けられないでしょう。しかしファンからは「WSC版のように原作準拠でもいいからリメイクしてほしい」「せめて『サガ2』『サガ3』DS版のようにリメイクを!」という声が根強くあります。シリーズプロデューサーでもある河津氏はユーザーの要望に敏感なことで知られますから、将来的にサプライズ発表があるかもしれません。
いずれにせよ、『魔界塔士Sa・Ga』は携帯ゲームRPGの金字塔として半永久的に語り継がれる作品でしょう。その独創性とチャレンジ精神は色褪せることなく、今後もサガシリーズの源流としてファンの記憶に刻まれていくに違いありません。もし未プレイの方がいれば、まずはSa・Ga COLLECTION版で当時の雰囲気そのままに遊んでみることを強くお勧めします。ゲームボーイ初期にこれほどの意欲作があったのか!**ときっと驚かれることでしょう。30年以上前の作品とは思えない自由度と奥深さを持つ『魔界塔士Sa・Ga』は、今なお新たな冒険者を塔の頂上へと誘っているのです。